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名古屋地方裁判所 昭和56年(ワ)2797号 判決 1983年1月28日

主文

一  被告は原告に対し金一〇三二万六七六〇円及びこれに対する昭和五三年六月一〇日から支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  本判決は仮に執行することができる。

事実

(申立)

第一原告

主文と同旨の判決及び仮執行宣言。

第二被告

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

(主張)

第一請求原因

一  本件事故の発生

1 事故発生日時 昭和五一年六月二八日午前〇時ころから同年七月五日午前八時五五分の間

2 事故発生場所 名古屋市港区大江町二番地名古屋港六号地三八番岸壁

3 加害車両 小型四輪乗用自動車(名古屋五一も七〇八五)

4 加害車両の保有者 被告

5 加害車両の運転者 訴外河野安廣

6 被害者 訴外伊場川裕之

7 事故の態様 被告の長男である訴外河野安廣が加害車両に被害者を同乗させたうえ同車を運転し、事故発生場所に差しかかつた際、自車もろとも海中に転落

8 事故の結果 被害者死亡

二  被告の責任

本件事故の結果、加害車両の保有者たる被告は、自動車損害賠償保障法(以下単に「自賠法」という。)三条に基づき自己のため自動車を運行の用に供したものとして、被害者の相続人に対し、右事故による損害を賠償する責任がある。

三  損害

本件事故により被害者伊場川裕之(以下「被害者」という。)及びその相続人母伊場川二三子は、次のとおり少なくとも金一七三一万七九六〇円を下らない損害を被つた。

1 文書料(死亡診断書) 一二〇〇円

2 葬儀費 九万円

葬儀費定額二五万円から健康保険給付額一六万円を控除した金額

3 逸失利益 一三二二万六七六〇円

被害者は、死亡当時満二〇歳の健康な男子であるので、年齢二〇歳の平均給与月額九万二五〇〇円を月収とし、生活費控除月額四万六二五〇円、右年齢に対応する新ホフマン係数二三・八三二により計算した額

計算式(92,500円-46,250円)×12か月×23.832=13,226,760円

4 慰謝料 四〇〇万円

被害者本人分 一五〇万円

被害者の母伊場川二三子分 二五〇万円

四  被害者の権利の承継

被害者の母伊場川二三子は、相続により被害者の権利義務を承継した。

五  自賠法七二条一項に基づく損害のてん補

加害車両には、自賠法に基づく責任保険契約が締結されていなかつたため、被害者の相続人伊場川二三子は、原告(所管庁運輸省自動車局)に対し自賠法七二条一項に基づき損害のてん補を請求し、原告は右伊場川に対し昭和五三年五月一七日その損害てん補金一〇三二万六七六〇円を給付した。

六  自賠法七六条に基づく代位

右給付の結果、原告は、自賠法七六条一項に基づき、右給付額を限度として、前記伊場川二三子が被告に対して有する損害賠償請求権を取得した。

七  よつて、原告は被告に対し、損害賠償金一〇三二万六七六〇円及びこれに対する前記損害てん補の日の後である昭和五三年六月一〇日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第二請求原因に対する答弁

一  請求原因一の事実中、1の日時に2の場所で3の車両が海中に転落し、6の被害者が死亡した事実のみを認め、被告が加害車両の保有者であるとの点を否認し、その余の事実は知らない。

二  同二の主張を争う。

三  同三の事実は知らない。

四  同四の事実は知らない。

五  同五の事実中、加害車両に自賠法に基づく責任保険契約が締結されていなかつた事実は認め、その余の事実は知らない。

六  同六の主張は争う。

第三被告の主張

一  被告は従来本件加害車両を所有していたが、昭和四九年六月頃、これを訴外上宮正に金一〇万円で売渡し、昭和五〇年一二月頃、同人はこれを被告の子訴外河野安廣に売渡し、本件事故当時同人の所有であつて、被告は本件加害車両につき何らの運行利益ないし運行支配を有していなかつた。

二  本件事故は遅くとも昭和五一年六月二八日に発生したものであるから、その頃その被害及び加害者を知つたというべきであるから、本件事故に基づく損害賠償請求権は三年の時効完成により消滅した。なお、後記原告の主張中、原告が被告に対しその主張のように即決和解の申立をなし同手続が不調となつた事実は認める。

第四被告の主張に対する原告の反駁

一  被告が本件加害車両を訴外上宮に譲渡し、同人が訴外安廣に譲渡したとの事実を否認する。仮にそうとしても、本件事故当時、被告は本件加害車両の登録上その使用者とされているものであり、且つ所有者とされる安廣の父であり、その「キー」を保管しているものであるから、保有者としての責を免れるものではない。

二  本件損害賠償請求権は時効によつて消滅したとの主張は否認する。右時効の進行は中断された。

すなわち、被告は本件事故発生により被害者伊場川の相続人に本件給付をなし

1 被告に対し昭和五三年六月一六日、国の債権の管理等に関する法律一三条に基づき本件債権の納入告知書を送達して、その履行を求めたので、右告知は会計法三条により時効中断の効力生じ、

2 また被告に対し、昭和五六年三月七日催告書を送付して本件債権の履行を催告し、同年八月一二日名古屋簡易裁判所に本件債権の支払に関する即決和解の申立をし同年九月一〇日右和解は不調となり、同年九月二九日、本訴を提起した。

(証拠)

本件記録中、証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告主張の日時、場所において本件加害車両が海中に転落し被害者伊場川裕之が死亡したことは当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲第一ないし第六号証、第一三号証、被告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件加害車両は昭和四九年頃被告が中古車として買受け取得し、じ来今日まで自動車登録上、使用者として登録されており、その「キー」を所持して保管していたこと、本件事故は被告の長男安廣(事故当時一九歳)が運転中発生し、前記被害者は之に同乗中事故に遭遇し死亡した事実が認められる。

被告本人の供述中、被告は本件加害車両を取得した後これを訴外上宮に売渡し、同人は後に之を前記安廣に売渡したもので、被告は本件事故当時右車両につき何らの支配を及ぼさないようになつたとの点は前記認定事実に照らし到底措信できるものではなく、また乙第一号証も同断であり他に右認定を左右するに足る証拠はない。

三  そうとすれば、他に特段の主張、立証のない本件では、被告は本件加害車両の運行供用者として、前記被害者の死亡によつて生じた損害を賠償する義務があるところ、成立に争いのない甲第三、第六号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第七号証の一・二、第八・九号証を総合すると、請求原因三ないし五の各事実を認定でき反証はない。(なお、本件加害車両に自賠法に基づく責任保険契約が締結されていなかつたことは当事者間に争いがない。)

四  以上によれば、原告は自賠法七六条に基づき右給付金を限度として被害者の相続人伊場川二三子が被告に対して有する損害賠償請求権を取得した。

これに対して被告は、右損害賠償請求権は三年の時効完成により消滅したと主張するので考えるに、以上認定事実によれば前記二三子は本件事故及び加害者を昭和五一年七月五日には知つたものと認められるところ、成立に争いのない甲第一〇号証第一一号証の一・二に弁論の全趣旨を総合すれば、原告は昭和五三年六月一六日被告に対し本件債権につき納入告知書を発してその支払を求め、昭和五六年三月七日書面でその支払の催告をなしたことが認められ、同年八月一二日右債権の履行に関し即決和解の申立をなし右手続は同年九月一〇日不調によつて終了したことは当事者間に争いがなく、同年九月二九日本訴が提起されたことは記録上明白である。従つて本件債権の消滅時効は中断されたものであり被告の右主張は採用できない。

五  以上の次第で原告の本訴請求は理由があるので認容し、民訴法八九条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浅野達男)

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